2008年特集

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新しい時代への力 〜メジロ牧場厩舎長インタビュー〜

 昨年に引き続き、今夏も北海道のメジロ牧場にお伺いさせていただきました。今年は、一昨年から厩舎長になられた市川厩舎長(牡馬育成担当)、手嶋厩舎長(中間育成担当)、蛯名厩舎長(休養馬担当)から、育成を中心としたお話をお伺いすることができました。今のメジロ牧場が、若い人たちの力によって新しい時代に入ろうとしていることが感じられるインタビューとなっていると思います。最後に、インタビューに応じていただいた厩舎長の皆さま、並びに、こころよく迎えていただいた岩崎専務をはじめとするメジロ牧場の皆さまに改めてお礼申し上げます。 管理人 ジリ

――さっそくですが、今年の2歳は新馬勝ちの3勝を含む4勝(8月24日現在)をあげ、昨年以上の活躍を見せています。今年の冬は新たな試みで深いダートで乗り込んだという話を伺っています。その経緯を教えてください。

市川厩舎長(以下敬称略) これまでの冬場の調教というのは、強い調教をしたとしても、硬く踏み固められた雪の上をサラッと走っているような感じで、余り負荷がかかっていませんでした。だから、調教をやっても、余り疲れて帰ってこないというか、運動になっているかどうか分からない状態でした。納得のいく調教ができなかったので、何かいい方法がないか模索し始めていたんです。 そんなときに、西山さんの牧場で、冬の間は、塩を撒いてダートの上で乗ってるとか、夜中に社員が交代でハローをかけているという話を聞いたんです。他にも社台さんでは、坂路の砂の深さを深くしたといった話を聞いたりして、とりあえず何でもいいから、何かを取り入れたかったというのが正直なところでした。

――これまでの冬場の調教というのは、具体的にどのような感じだったのですか。

市川 今までのメジロ牧場は、馬場に降り積もった雪をブルドーザーで平らにならして、その平らになったところを走らせていた。おそらく、それがずっとメジロ牧場では続いてきたんでしょうね。でも、そのやり方だと、冬の間にしっかりと汗をかかせて、負荷をかけた運動ができたかというと、なかなかできなかった。雪が解けたら、解けたで、馬場は解けた雪でザクザクになっていますから、もう馬場に入れるような状態ではなくなるんです。ですから、調教が休みになったり、馬に跨ったとしても屋内の狭いところで並足程度の運動しかできなかったり、それくらいのことしかできなかった。


深いダートコースで調教を重ねる2歳馬

 昔ならそれでも良かったんだろうけど、今、大手の牧場さんは、屋根付き馬場をもっているから、冬場でも思い通りの調教をこなしている。だから、今年、このように乗れたというのは、今の結果に繋がっているのかもしれません。これでようやく同じスタートラインに、土俵に立てたっていう意識です。

――今回、新しい試みをやってみて実際はどうでしたか、昨冬は、特に雪が酷かったと思いましたが

蛯名 アレはしんどかったよね。夜中2時間おきに交代で馬場にハローをかけて。

市川 一晩中、2時間経ったら次はお前とか、みんな眠たい目を擦りながら乗っていました。最初はそんなところからスタートしたんです。だけど、他所の牧場さんとやっぱり地域が違うところがあるから、同じようにハローをかけて、真似をしてみても、やっぱり途中でうまく行かなくなってきたんです。

――どのような問題があったのですか

市川 夜中に冷え込んでくると、砂同士がくっついて固まってくるんです。そうなると、馬場を走ったときに挫跖の心配が出てくるんです。そうしたら、それを解消するには、ロータリーで混ぜた方が早いんじゃないのかって話が、農事担当の人から出たんです。それで、ロータリーをかけてもらったら、それが本当に砂浜みたいな感じにふかふかの状態になったんです。それからですね、これってすごい運動量になるんじゃないかって思うようになったのは。
 冬場なのに汗をしっかりかいて帰ってくる。湯気を出して、ポタポタ腹の下から汗が出てくるくらい。だけど、最初はそれでもやりすぎなのか、砂も深くしすぎたのか、と心配しましたけど、徐々に段階を上げていくうちに、馬も慣れてきたんです。ダートコースの一番深いところで17センチくらいあったんですが、他所の牧場に行って話してみたら、それだけ深くすると馬壊すよって言われたこともあったんです。他に土地もないし、別にコース作り変える予算もないですから、仕方がなかったんです。できれば、ダートコースでも浅い馬場と深い馬場と両方あって、どっちか選択して乗るってことができれば良かったけど、それでも、深いダートコースだけで運動していくうちに馬がしっかりしてきたんです。

――それでも、調教し過ぎているという不安はありませんでしたか

市川 そうですね、そういった意味で、メニューの作り方が大変でした。これまでは雪を踏み固めた馬場でずっとやってきましたから、ダートの状態で乗るということに対して、どのように調整していったらいいのか、どのように運動メニューの強度を上げて行ったらいいのか、なかなか分からなかったです。だから、頻繁に他所の牧場に行って、今どのくらいの調教しているのか、どういう体つきになっているのか、エサはどのくらい食べているのか、いろいろ見に行きました。それでも、やっぱり自分の牧場に戻ってきたら、どうしたらいいか分からないですよ。何が正しくて何が悪いのか。とりあえずやってみないと分からない。だから、自分で調教メニューを組み立てながらも、これってもしかしてオーバーワークになっているのかなとか、もしかしたら意外ともっといけるのかなとか、手さぐりの状態でした。それでも、雪の上で乗るよりは、ずっとコンスタントに乗ることができたし、思ったようにメニューをコントロールできたのは確かです。その部分は、この馬場で助かったということはあります。

――順調に調教が進められて、それが4月の早い時期の入厩に繋がったと

市川 そうですね。先ほども言いましたが、今までは雪解けの時期はどうしてもザクザクになって乗れないという事情がありましたから、メジロ牧場では、その時期を目安にお休みというのがありました。雪が解けて、馬場がしっかりしてきて乗れるようになってから乗り出すから、遅れていたんです。メジロの馬の入厩が遅いのは、そういった理由からです。それから乗り始めて、作り始めるわけですから、どうしても入厩の時期は遅くなってしまう。だから、今年は逆にどこで休みを入れてあげたらいいか、迷っていました。今までのように入れたほうがいいのか、ずっと乗り切ってしまったほうがいいのか、そうしているうちに、結局は、なんだかんだ言いながら、多少運動メニューを軽めにしてあげたことはありましたけど、特に長く休みを取ることなく、乗り切ってしまったんです。

――そういった状況で入厩時期の判断というのはどうだったのですか

市川 牡馬担当なので牝馬についてはわかりませんが、牡馬は、函館での馬体検査が終わってから装蹄を実施しました。これがはじめての装蹄になるんですが、装蹄をして、運動強度を上げていったら、意外と手応えが良かったんです。それまでは、裸足ですから、爪の減りがすごく早かったんです。それでも我慢して走っていましたから、蹄鉄をつけたら、もっと踏ん張れるようになり、本当に動きが変わって、手応えがすごく良くなったんです。

――今後の課題というのはありましたか

市川 今年が良くても、来年がいいという保障はないので、例えば、これが4年とか5年ずっと続いて、早い入厩ができて、どんどん使えて、どんどん勝ち星をあげて、と繋がっていけば、何が良かったのかというのは見えてくるだろうけど、今回は本当に試しながら、どんなことが一番いいのかを、ただ単に理想的なところを考え、求めてきた結果が今なんで、何が良かったとか悪かったかは、まだ分からないです。それに今年の2歳は中間育成の厩舎長と話して、馬の作り方から始まってますから、調教だけがどうこうという問題ではないと思います。今の3歳世代と2歳世代とで中間育成の部分、体の作り方から違うんです。それに、これから馴致する1歳も、今の2歳世代と違う作り方をしていますから、また別の結果が出るかもしれません。

――中間育成を変えたという話がありましたが、どのように変えられたのでしょうか

手嶋 基本的には、本当に脂肪を付けないようなやり方と、ある程度は脂肪を付けるようなやり方があるんですが、最初はみんな丸々していたんです。それを段々下げていったり上げていったりと、微妙な調整をして、最終的に去年は馬体を細くしたんです。細くしたら細くしたで、いろんな障害が出てくるし、太っていれば太っていたで障害が出てくるんです。背中に乗ってどうのこうのできないので、いかに放牧に出すか、その中で、どのくらいエサをやって、どういうふうにコンディションを整えていくか、それだけです。

――中間育成はいつから、どれくらいの時期までになるのですか

市川 離乳が終わって、伊達から本場に来て、それから馴致するくらいまでの間です。今の2歳世代というのは、本当に細く作りました。できるだけ太らせないようにしたんです。その結果、馬体がスッキリしてますから、放牧地ですごく走り回るんです。ちょっと太っているよりは、そうじゃないほうが動きやすいですから、そういう意味では、夜中もずっと走り回っていました。でも、熱発しやすかったり、牧草負けしたり、皮膚が荒れたりとか、細くしたことによって欠点もあったように思います。それでも、3歳世代が、2歳世代と比べてもっと太い状態だったので、馴致するときにダイエットするところから入りましたから、2歳世代は、ある程度スッキリした馬体で始めることができたんです。

手嶋 そうだったね。あれで青草をなくしたら、思い通りのコンディションになるのかなっていうくらいだった。


夜間放牧を終え、疲れて眠る1歳馬

――中間育成での運動は、どのように調整されるのですか

手嶋 うーん、もうそれは放牧する頭数とか、ウォーキングマシンを使用するとか、そういったところでやり繰りするしかないです。でも、頭数を増やすことは、やっぱりリスクが高くなります。頭数が増えると、動かしたくない馬も強制的に動いてしまうときがあるので、骨が弱い馬とかは、バッタバッタといってしまいます。

――中間育成が変わったことで、その次の育成でも変わってきたと

市川 3歳世代のときの調教は、3000M、4000M、5000Mと長い距離を乗っていたし、走らせるペースも速かった。速いところを求める調教をしていたんです。今回の2歳世代は、そういった方針を止めて、ゆっくりじっくり乗り込む、そういうスタイルに持っていったんです。たまたま馬場の砂が深くなっていましたから、距離も乗らなくていいですし、ペースを上げて15・15とか行かなくても、ホント18とか17で走らせているだけで、十分汗をかかせて、運動をさせることができましたからね。それに故障という故障はしなかった。

手嶋 腱とかには良かったのかな。

市川 それで、ゆっくりじっくり乗り込んで、ある日突然、ちょっと調教のペースをひとつ上げて、パッと走らせてみても、意外とスムーズに走るんです。もう、しっかりした体が出来ている馬は、行けっていったら、もうすぐ対応できる体になっていたんです。ですから、5月に牧場から送り出した馬は、牧場でハードな調教を経験する前に行ってしまったんです。今は強い調教メニューもやっていますが、だからといって、これから送り出す馬がもっと走るかというと、それは違うと思います。 今乗っている馬は、やっぱりそのレベルそのレベルで調教に慣れてしまっていますから、さらに、長い距離を乗り込むとか、もっとペースを上げてということになると、去年に逆戻りしてしまうことになるので、今後どうするかは牝馬の厩舎長と考えているところです。

――前半組が現時点で4勝と活躍しているのをみると、後半組は非常に楽しみなのでは

市川 そうですね。後半組というのは、中には調教師の先生と話して後半組に入れたという馬もいますが、だいたいは何か問題があって、順調に行かなかった馬が、大半なんです。前半組というのは、何もしなくてもスムーズに行ってくれましたが、今残っている馬たちは、なんだかんだ故障があったり、順調に行かない体質だったり、むしろ、前半組が片付いた後のほうが大変な思いをしています。
 でも、後半組は、それをひとつひとつクリアーさせながら調教を進めていますから、それがうまく繋がっていけば、前半組より調教量が多い利点があるわけですから、それが生きてくる馬も出てくると思います。

――今年の2歳は昨年以上に期待してよろしいということですね

市川 ええ、メジロを応援してくださっているファンのみなさまに期待してもらってますから、僕らもそれらに応えられるように頑張ってます。それに、僕たち自身も期待していますから。


順調に乗り込まれる2歳馬の後半組

一同 笑

市川 それで、これがまた2年、3年とずっと続いていけば、いいのかなと思います。

――話は戻りますが、3歳世代が12頭勝ちあがっています、この成績については

市川 これも4歳世代と違って、調教はやりましたからね。やったといっても他所の牧場でもやっていることですから、自分たちの中ではやれたと評価するだけです。

――でも、12頭の勝ちあがりは凄いんじゃないでしょうか

市川 それでも、ひと昔、ふた昔くらいのメジロ牧場から見たら、重賞を勝っている馬、何頭もオープン馬がいた時代もありましたから。それを考えると、まだ全然です。
 でも、3歳世代はキッカケを作ってくれたと思います。3歳世代は、こんなに乗り込んでいて、こんなにやっても、どこかイマイチ評価が上がらなかったという現実がありました。それなら他に何をやればいいのかというところから、今年の出発点でしたから。この世代がいなかったら、このようには変わっていなかったと思います。厩舎長が集まって話をするキッカケにもなったし、僕らがすごく勉強させてもらった世代です。

――最後にみなさんが期待している2歳馬を教えてください

市川 まったく個人的な話ですが、谷原先生の所のタニノギムレット産駒のメジロワーロックが、すごく好きなんです。母親のブルテリアは、乗ってたときに散々泣かされていて、因縁染みたところがあるんです。そのブルテリアの子供だから、すごく可愛いなと思っていたんです。それに、僕と誕生日が一緒なんです。厩舎に入れるときも、谷原先生のところにメジロの卒業生が3人いるので、この馬は今年一番気に入ってて、一番大好きな馬だから、走らせてくれってお願いしているんです。谷原先生のところでは、なかなかの評価をもらっていて、すごく馬の状態は良いって聞いていますが、今のところ2戦して2戦負けてます(9月28日に4戦目で未勝利勝ち)。

――レースは惜しい内容でしたよね

手嶋 まだレースで遊んでいるね。

市川 まだ馬が子供だって聞いているので、そのあたりをうまくやってもらったら、いいなって話はしているんです。馬の能力うんぬんというのを度外視して、本当に自分が気に入った馬です。これには本当に頑張って欲しいです。

――能力的に期待している馬はどうですか

市川 なんでしょうかね。能力的にはメジロチャンプとかはいいですね。チャンプは、状態が良くなって、これは行けるって思ったので、先生のところに連絡したんです。馬の状態が良さそうだから、持っていってくださいって言ったら、「え」って最初言われたりしたんです。これなんかは、見てて良いなって思いました。
 あとは、メジロブリットかな。あれはすごくいい感じがしたんです。除外で残念な結果でしたけど、これから牧場で立て直して行きたいですね。
 タイムの仔(メジロルマン)、あれなんかも、みんなは奥手の血統だから、まだだ、まだだって言っていました。それでも、調教を見ているときから、いい動きをしていたし、これはいけるだろうと思ってました。これも先生に電話したときに、「え、もう?大丈夫なの?」って言われたんです。それでもトレセンに持って行って、厩務員さんにお話を伺ったら、基礎的な体力は十分できているし、動きも水準くらいだから、今年の馬はいいよって評価は頂いたんです。
 去年は、長い距離を乗り込んで、坂路もいい勢いであがってるから、自信を持って送り出したんですが、基本的な体力が足りないって、結構言われていたんです。去年できていなかった部分を今年はある程度改善できていたので、これからもさらにプラスアルファになるようなことをやっていけばいいのかなと認識しています。

――手嶋さんはどうですか

手嶋 中間育成なので、実際には乗ってないから。でも、結構いますよ(笑)。ただ、実際は中間育成で見てた馬が、育成で乗って、それでレース出るわけだから、もう、その頃には次の馬を見ているので、もう、頑張って〜くらいにしか見ていないです。
 それに跨ったときの背中の感触が大事なので、跨ってから良い悪いの判断は下せるけど、跨らずに、ずっと中間育成で見てきた馬が、馴致をして、自分の想像している背中かかどうかっていうのを見るのが一番面白いですね。これよこれ、こういう形だよって。そういう視点で、牡馬でいったら、好きなのはメジロウォーズ。父メジロベイリーで母メジロジョーンズです。小さくて可愛いんです。最近、ウォーズの性格がきつくなっているって聞いてるんだけど。

市川 うん、3頭あわせでガリガリとペースをあげてきたら、何かキリっとしてきたというか戦闘的な雰囲気がでてきた。

手嶋 ウォーズは馬体は小さいですけど、非常に楽しみです。それと、牝馬でいったらマリー(メジロポピンズ)かな。気性的にキツイところがあるから、あんなレースになってしまったけど、あれは能力が高いと思います。あとはサンドラ(メジロマリアン)かな。

――蛯名さんはどうですか

蛯名 2歳世代の馴致をやったのですが、自分が馴致を担当した馬の中からあげると、メジロフィーバー。あれは死にそうになりましたから。

一同 笑

市川 フィーバーは素行の悪いところがあるので、マジメに走ってくれれば期待は大きいです。

手嶋 あれもいいって言っていた馬だよね。

市川 動きは間違いなくいいです。あれは前半に送った馬たちに引けを取らない、むしろこっちのほうがいいくらいの動きはします。ただ、素行が悪い。

蛯名 あれは本当に楽しみだね。

市川 河内先生のところにも、メジロの卒業生が一人いて、フィーバーを持たせてもらえるかはわからないけど、持たせてもらえたらうれしいって、先日も牧場にまで見に来てくれたくらいです。

蛯名 牝馬だとメジロホリデイ。あれは乗っていて癒されるんです。小さくて本当に可愛いいです。

――期待の2歳馬を教えていただき、本当にありがとうございました。来年のクラシックへ向けて非常に楽しみとなりました。本日は本当にありがとうございました。