――最近のメジロ牧場の産駒に今までのメジロではなかったような配合が目に付くんですが
岩崎 伊達にいる若いのが、いろいろと配合計画書を作ってくれるんですよ。
――自分が気になったのが新潟で勝ったアリスで、ゴールデンフェザントの肌にアドマイヤコジーンでカロにカロという配合
岩崎 あれもたぶん彼の配合だったんじゃないかな。
――今までのメジロ牧場ではなかったところだと思うんですよ
岩崎 うん、今までとはちょっと違うでしょ。彼は今までと全然考え方も発想も違うと思う。そういうのもこれからは必要なんですよ。いつも同じパターンじゃやなくて、新しく取り入れるところは取り入れるっていう時代になってるんです。
いつまでもメジロ=3200Mという天皇賞というイメージだけじゃ生き残っていけないし、これだけマル外が開放されて、この間はダーレーに免許がおりて、JRAの売り上げが減って賞金や手当も下がってくる。もちろんみんな苦しいでしょうけど、一般で馬主をやっている人はそんな賞金が下がって採算合わないんだったら本業に戻ればいいけど、うちは戻るところがないわけですよ。これで食べていかなきゃいけないから、嫌だから止めるわけにいかない。賞金がカットされて厳しくなったら、やっぱりその厳しくなった中で生き残れる方法を、それには夢ばっかり追ってちゃダメだし、ある程度取り残されないように付いて行かないといけない。だからといって規模縮小もしたくないんです。
会議室に飾られたたくさんの重賞の優勝レイ
岩崎 ライアンが現役のときは冬場の育成ってやってるところってどこもなかったんですよ。昭和47年頃から雪上トレーニングをガンガン乗ってて、その当時は坂路とかもわけわかんなく乗ってたわけですよ。冬は鞍外したら全身から湯気がでるくらいで、今なら背中が冷えたらいけない、腰が冷えたらいけないってうるさいけど、それもそのまま放牧してたわけですよ。それだって他所でやってない時代に1歳の秋から馴致して、暮れから乗り始めて、みんなが何にもしていないときにガンガン乗ってたから、血統が三流だろうと、四流だろうと走るわけです、やっぱり最初の頃はうちだけだったと思います。それから段々育成が見直されてきて、冬場でも何かやろうってなったのは、この15年ですよ。ノーザンももちろん始めるようになった。そしたらやっぱりみんな同じことをやるようになったら、今度は血統がいいほうがいいに決まってますよね。そうなると当然置いていかれるわけです。
岩崎 ノーザンさんや社台さんがなんでこれだけ強いのか。世界中から良血の繁殖牝馬を購入し、育成施設を充実されて、馬を扱うプロを育て、もの凄い企業努力をしてきた結果なわけです。じゃ真似できるかって、当然うちは血統の真似はできないし、じゃやっぱり育成やどっかでうちの味を出していかなきゃいけない。で、やっぱり今の競馬の距離体系、賞金体系をみても、それで稼げるものを作らなきゃいけない。そういう面でいろいろと方向転換していかないと生き残れないというのも常に考えなきゃいけないし、どうしたら生き残れるかっていうことも考えなきゃいけない。さっき言った安定経営をするためにどうするか。常に経営の中心に安定経営があって、それができてはじめて次に何をするかなんです。もちろんメジロとしてのやっぱり続けることは全く頭から切り離したわけじゃないし、それを頭の片隅においてはいるけれども、それらをやるためにやっぱり経営が成り立ってできることですから。私の立場としてはやっぱり経営の安定ということが一番なんです。
ただ、こういう仕事で安定するわけないんですよね。その中での安定を目指さなきゃいけないんです。所詮、配合からギャンブルなわけですから、同じ配合をして同じ育成したって結果は変わるわけですよね。そんな中でも安定するというのは、それは何かって言えば、やっぱり未勝利馬が少しずつ減ることが、G1馬を出すことよりも安定経営に繋がるわけです。30頭生産して、29頭が未勝利、1頭だけオープン馬になったって安定経営じゃないですからね。そういう意味でひとつでもいいから未勝利馬をなくして、1つでもいいから500万を勝って、底上げすることが必要なんです。これがやっぱり安定経営の一番の原則。そうなれば必ず、G1勝てる勝てないは別として、オープン馬が何頭かは出るわけですよ。私の理想のはだいたい1割、1世代から1割オープン馬が出れば、経営は安定してますね。30〜35頭ですから3.5から4頭オープン馬が世代から出たら、その世代はもう成功だと思っています。それにはまず50%以上が勝ち上がって、そうしたらほとんど成功だと思ってます。全部勝ちあがることは今の世の中不可能ですから、だから一応目標はやはり半分以上が未勝利を脱出して、1割がオープン馬になることが、目標です。そこまでのラインは常に越えたいなと。
――これからの話ですが、その目標は達成できそうですか
岩崎 うん、すぐにとはいきませんが、従業員も皆、危機感をもって、一生懸命頑張っていますから、やって行けると思います。うちの牧場では工事や牧柵を、外注にしたらお金がかかっちゃうから、全部自分たちで作るんです。ウォーキングマシンだって6、7機あるのも、材料だけ買ってきてほとんどうちで作っちゃう。そういう形でやってるから、普通の牧場からみたら、ずっと経費はかけてないと思います。やっぱりいいものだけ作るよりも、手作りで見栄えが悪くてもお金がかからない、名より実をとる、という経営方針なんです。その中で出来る範囲で綺麗にしてる。ノーザンさん、社台さんにしても、ビックレットさんにしても、会員さんがいる、馬主さんがいてしょっちゅう来る。綺麗にしておかなければならないわけで、その点うちはお客さんがいなくて、馬が走ればいいんです。綺麗にすることも大切ですが時間があるんだったら、その時間と手を馬にかけなさいという方針を現にやっているんです。メジロ牧場の大きな経営方針かな。
――その中でメジロらしさを出すということですね
岩崎 うーん、やっぱり自分とこで走った母馬がまた牧場に戻ってきて、ベイリーのようなメジロの種牡馬から子供が続くというふうにして、やはり馬を最後まで売ることがなくて、すべてメジロって名前がついて走る。父内国産を大切にする。このスタンスは変えていかないようにしたいね。やっぱりパーマー、マックイーン、ライアンからブライトと続いた種牡馬が続いて、今のベイリーが終わっちゃうと何にもなくなるっていうのは寂しいから、なくなる前にまた何かつけて、メジロの名のつく種牡馬をつくっていきたいね。数は要らないから流れとして必ず残るように、これもうちを応援してくれてるファンの人の気持ちからいっても続けて行きたいですね。
――はい、期待しています(笑)
岩崎 そうですね。そういうものは大事にしていきたいなと思っていますよ。メジロは馬を大事にするんだってイメージは。乗馬に出すにしても何をするにしてもなるべく、全部は置いて置けませんけど、ある程度頑張った馬とか頑張った仔を出したお母さんとかは、できるかぎりうちで引き取って末永く余生を過ごしてもらうってのも、うちのいいとろかなって思ってます。
――今功労馬はどれくらいいるんですか
岩崎 えーと、ティターンとパーマー、ライアンの3頭、母馬では伊達のほうにいくと、ビューティーとチェイサー、レールデュタン、それからモントレーかな。マックイーンが急死すると思っていなかったから、3頭並べるのが夢だったんだけど、今は代わりにお父さんが入ってるんだけどね(笑)
――話は戻りますが、マックイーン産駒の残り2世代になりましたね
岩崎 1歳ではランバダはかなりいいと思いますよ。それで期待しているからこそ名前も大事にしていますし。当歳でも2頭いたのかな。
――最後の世代になりますね
岩崎 ほんと、よく2頭生まれましたよね。シェアザハートと競馬をしてないラモーヌの娘でスノーシューかな。スノーシューは繋ぎが立ち過ぎて競走馬になれなかったんですよ。父親はエルコンドルパサーですね。
――メジロではないんですが、昨日(8月26日)マックイーン産駒のホクトスルタンが勝ちました
岩崎 まぁ最悪うちがもしダメでも、よそのマックイーン産駒で天皇賞出てくるような馬が出てくればいいなと思ってるんですけど、もし種牡馬になればうちがそれを付ければいいわけですからね。流れとしては消えないわけです。ファンの人にしてみれば、メジロが途切れてっていうのはやっぱり不満かもしれないけど、最悪の場合はそれでもいいなって。それくらい切羽詰った時期に来てるからね。
――ラモーヌの子供では活躍馬がでませんでしたが、その孫から最近勝てる馬がでてきていますからスノーシューは期待したいですね
岩崎 ラモーヌの孫やひ孫(笑)。だからね、これはたぶん結論では言えないけど、ラモーヌにしてもモントレーにしても、父のモガミが繁殖としての血を壊す血統なんじゃないかって思っているんです。昔、本桐牧場さんにいたチャイナロック。あれがくぐると繁殖みんなダメになったんですよ。血を止めちゃう血統なのかな。なんかモガミもそれに似ているような気がするんだよね。
――現役は走りましたよね
岩崎 現役馬はいいんですよ。繁殖に入ってモガミの仔で成功している馬っていうのはほとんどいない。だからね、モガミの血を薄めてきてるから、直仔より孫、孫よりひ孫のほうが良くなっていくんじゃないかって思うんです。だから、諦めないで流れを続けて行きたい。そんな気がするんですよね。
――言われてみるとそんな気がしてきました(笑)
岩崎 そう思うとちょっとは気が楽になるんですよ(笑)思わなきゃやってらんないですよね。
そのほかに繁殖で悔しいのがスーザン(メジロダーリングの半妹)。これは人間の欲ですよね。サンデーでうちにこれくらいの馬がいるかってくらい素晴らしい馬だったんですよ。脚部不安があって中央デビューに間に合わなかったので道営に持っていったんですが、レース中事故で亡くなっちゃって、だからこれなんか未勝利だっていいんだから、繁殖に上げとけばよかったのに。4コーナー回って骨折してるのにぶっちぎりでしょ。勝たして中央行ったって脚がひどくて厳しいんだから、繁殖入ってたらどれだけ仔が走ったろうってね。これも人間の欲で殺しちゃったようなものだね。
――だからマックイーンやラモーヌの近くにお墓があるんですね
功労馬のお墓の奥にスーザンとアレグレットのお墓が
岩崎 知らない人がみたら、名馬でもなんでもないし。本当にね、馬に対して申し訳ないって思うのはスーザンが一番ですね。
ドーベルの仔にアレグレットっていたじゃないですか。ドーベルの仔も1番目は使えなくて、2番目のサンデーは失明して使えなくて、アグネスタキオンの3番目は牧場の管理じゃないんだけど、レース中に。あれも結局そういう不運な運命だったのかもしれない。新馬戦のときに他馬に寄られて、あの横っ飛びしたのが最後まで響いたんですよ。あれさえなければ、ぶっ千切って勝って、運命全部変わってたかもしれない。あれが原因で捻って、それが酷くて帰ってきて、で戻って厩務員さんに聞いたらやっぱり繋ぎが怖かったって。だから、最後は繋ぎがグシャっていった骨折でしたからね。あれはああいうアクシデントのときにたまたま隣にいたのが不運。ちょっと後ろにいるか前にいれば違うわけですから。今思うとすごい繁殖になったんじゃないかなって。あれは競馬場でのアクシデント、さっきのスーザンのは私の判断だから、すごく責任を感じています。ホントあれがいてくれたら・・・って余計に思うんですよね。
――ちょっとしたことでこうも違うんですね
岩崎 やっぱり牧場でね。1歳の秋から馴致していて、乗り始めて、雪の中でずっと乗ってきて、コンスタントにずっときた馬は芽がなくなって、順調にいって結構走ってくれます。やっぱり乗ってて腰が痛くなったり、休んだり、球節に熱持ったり、飛節がおかしい、どっかおかしいって順調さを欠いてる馬っていうのはこういうことになってしまうのかな。
――最後に期待の2歳馬を教えていただけますか
岩崎 厩舎長に直接聞いてもらったほうがいいんだけど、アースラは牝馬の中ではいいよって話だったし、牧場で期待していたのがガストンで、デビュー戦はちょっとガッカリしちゃったんだよね。これはもっといい競馬するはずなんですよね。
――調教ではかなり良かったと思うんですが
岩崎 本当に良かったんだけど、だんだんチグハグになったのかな。それとアイルオブグラスのトゥルーズもすごく評判がいい馬ですよ。本当ならもっとデビューも早いはずなんだけどね。それにドーピーもものすごくいいもの持っていますよ。
――ドーピーはセン馬になってましたが、気性にでも問題があったんですか
岩崎 そうそう。コロンバイトはみんなそう。みんなダメ。フレンチデピュティのアニマートもそうでしょ。この血統は気性が問題だね。カンパナの血統もキツくて、セン馬がいるでしょ。あとはダーリングの仔アリエルやダッチェス。ダッチェスは本当はもうちょっといいはずなんだけどね。あれで終わる馬じゃないと思うよ。
――長時間にわたり本当にありがとうございました。今後もメジロを応援していきますので、よろしくお願いします